売れたのにやめた。季節メニューの経営判断。

売れたのにやめた。季節メニューの経営判断。

お客様の声をきっかけに、あるメニューを作ったことがあります。

シンプルな料理でした。 喜んでもらえる自信はありました。
実際、売れました。
お客様からも好評でした。

それでも、そのメニューは1シーズンでやめました。

売れたのに、やめた理由

売れ行きは悪くなかった。
お客様の反応も悪くなかった。

それでもやめたのは、売値の問題でした。

シンプルな料理は、どうしても売値に限界があります。
素材がシンプルなぶん、高い値付けに納得感が生まれにくい。

結果として、そのメニューが出るたびに客単価が下がっていきました。

売れているのに、売上が伸びない。
それどころか、下がる方向に引っ張られていく。

この経験が、季節メニューの考え方を整理するきっかけになりました。

自分という労働力には、限界がある

厨房に立つのは、自分一人です。

仕込みも、調理も、仕入れも。 使える時間には、物理的な上限があります。

だとすれば、その時間をどう使うかは、経営の核心に近い話になります。

安価な食材を使ったシンプルな料理を、たくさん出す。
それも一つの選択です。

でも、私が選んだのは逆の方向でした。

手間をかけること。
時間と技術が必要な工程を加えること。

その手間が、売値の根拠になる。

「なぜこの値段なのか」が、料理の中に見えるようにする。
それが、自分一人でできる仕事の時間を最適に使う、という考え方につながっています。

付加価値とは、何か

「付加価値をつける」という言葉は、ともすれば数字を取りに行く話に聞こえます。

でも、私が考えているのは少し違います。

高い食材を使えば、自動的に付加価値がつくわけではありません。
手間をかければ、必ず売値が上がるわけでもありません。

問題は、その価格に見合う体験を、お客様に渡せるかどうかです。

旬の食材が持つ、その時期にしか出せない味。
手間をかけた工程が生む、素材との新しい組み合わせ。

「こんなものがここで食べられるのか」という、小さな驚き。

そういったものが、値段への納得感につながる。
お客様が「また来たい」と思う理由になる。

付加価値とは、価格を正当化するための仕掛けではなく、体験の中身だと思っています。

お客様の満足度だけを考えれば、いいわけではない

ここで、少し踏み込んだ話をします。

お客様が喜ぶメニューを作ること。
それは大切なことです。
でも、それだけを考えていると、経営は長く続きません。

喜ばれても、利益が出なければ店は続かない。
続かなければ、そのお客様にも料理を届けられなくなる。

だから、季節メニューを考えるとき、私は常に二つの問いを持っています。

「このメニューで、お客様にどんな体験を渡せるか」
「このメニューが、店の経営を支えられるか」

この二つが両立するものを選ぶ。
どちらかだけでは、答えにならない。

シンプルで喜ばれるメニューを、1シーズンでやめたのはそういうことです。

冷たい判断に見えるかもしれない。
でも、続けることへの覚悟がある店にしか、次の季節は来ません。

安価な食材を外すのは、お客様のためでもある

結論として、季節メニューに安価な食材を使わないのは、数字のためだけではありません。

安価な食材に頼ると、売値を下げるか、利益を削るか、どちらかの選択を迫られます。
その積み重ねは、店を少しずつ疲弊させていく。

疲弊した店は、料理の質を保てなくなる。
質を保てなくなれば、お客様への体験も変わっていく。
「いいものを、適正な価格で出し続けること」 それが、長く続けるための軸だと思っています。

お客様の満足と、店の継続。
この二つは、対立するものではなく、両立させるべきものです。

季節メニューの食材選びは、その小さな実践です。

これは私が選んだ答えの一つです。

あなたのお店の答えは、また別のところにあるかもしれない。
そのきっかけになれば、嬉しいです。