開業に大切なのは「拡大」だけじゃない

飲食店を開業しようと考えると、多くの人が「いずれは店舗を増やして、事業を大きくしていくのが正解」と思いがちです。
確かに、メディアで取り上げられるのは「何店舗も展開して成功した人」。華やかで分かりやすい成功モデルですよね。
でも、実際に現場にいると「拡大が正解とは限らない」と感じる場面がたくさんあります。
僕自身も、拡大はせず一店舗で十数年やってきました。それでも生活を守り、資産形成を進めていくことはできています。
この記事では「小さなお店でも積み上げはできる」という視点から、開業を考えている方に向けてお話ししたいと思います。
拡大だけが正解ではない理由
多店舗展開にはもちろんメリットもあります。
店舗を増やせば売上の天井は上がりますし、ブランド力も増すかもしれません。
ですが、その分リスクも跳ね上がります。
- 大きな借り入れが必要になる
- 人材の採用・育成が必須になる
- 店主が現場から離れるので「料理人」ではなく「経営者」としての仕事が増える
こうした変化が「望んでいた姿」と合わない人も少なくありません。
一方、一店舗で身の丈に合った経営をしていけば、規模の限界はあるにしてもリスクを抑えて長く続けることができます。
資産形成に必要なのは「派手さ」ではなく「継続力」。その意味で、小さなお店には大きな強みがあります。
資産形成の前提は「身の丈経営」
資産形成というと「投資」や「金融商品」をイメージする方も多いですが、個人店の経営者にとっての資産形成は、まずお店を安定して続けられることが前提です。
そのために欠かせないのが「身の丈経営」。
大きくしすぎない、無理をしない。ここが一番のポイントです。
- 家賃や人件費などの固定費はなるべく軽く抑える
- 借り入れは「新しい挑戦」に使う場合を除き、最小限にとどめる
- 無理に人を雇って回すより、自分と少人数でオペレーションをコントロールする
こうした姿勢が、資産形成の“土台”になります。
拡大思考では「攻める勇気」が必要ですが、一店舗経営では「守る知恵」が大切です。
小さなお店でも積み上げられる3つの仕組み

生活費と事業費のバランスを整える
個人店にありがちなのが、「売上=生活費」となってしまうことです。
もちろんそれで生活はできますが、資産形成の視点からすると危険です。
資産を積み上げたいなら「余剰」を必ず残す仕組みを作ること。
たとえば、
- 固定費をなるべく下げておく
- 家計をシンプルにして、生活水準を急に上げすぎない
- 売上が良いときでも“余ったら使う”ではなく“余ったら残す”を徹底する
この積み重ねが、何年も経つと大きな差になります。
積立・運用を“営業と同じくらい習慣化”する
資産形成でよくある失敗は「余ったら貯金しよう」という考え方です。
現場で働いていると、余りなんて出ない月もあるのが普通です。
だからこそ「先に取っておく仕組み」が必要です。
具体的には、毎月自動で積立・投資に回す。営業で仕入れをするのと同じ感覚で、積立を“固定費化”するのです。
- 小規模企業共済
- 新NISA
- 倒産防止基金(セーフティーネット)
- iDeCo(今は新NISAで充分)
僕らは、これらを実践しています。
個人事業主には会社員のような年金や退職金はありません。
だからこそ「自分年金」を作ることが、開業と同じくらい大事になります。
店の仕組みそのものを資産化する
資産形成というと「お金」ばかりが注目されますが、個人店にとっては「信頼」や「仕組み」も資産です。
- 常連さんが増える → 売上の安定という資産
- 仕込みやオペレーションを効率化する → 体力と時間の余裕という資産
- お客様との信頼関係 → 不況に強い資産
この「目に見えない資産」を積み上げられるのは、一店舗を大事にしているお店ならではの強みです。
拡大しないからこそ見える景色

「大きくしない」ことは決して弱さではありません。
むしろ、一人ひとりのお客様にしっかり向き合えるのは小さなお店の特権です。
長く続ければ続けるほど、積み上がっていくものがあります。
それは派手な売上や大規模な展開ではなく、信頼や安心感といった目に見えない資産です。
そしてそれが、結果的に生活を支え、将来の安心につながっていきます。
まとめ

- 小さなお店でも資産形成は十分可能です。
- 大切なのは「身の丈経営」を土台にすること。
- その上で「生活費と事業費のバランス」「積立習慣」「店そのものを資産化する工夫」を続けること。
華やかな拡大路線だけが正解ではありません。
「続けられること」そのものが最大の資産になる──。
これから開業を考える方には、その視点をぜひ持っていただけたらと思います。
