「スモールスタートで始めよう」
そんな言葉をよく耳にします。
リスクを抑えて始めることは大事ですが、実際に店をつくる段階になると、
「どこまでがスモールなのか?」という線引きが曖昧になります。
今回は、僕自身の開業資金の内訳と、
「なぜ2000万円を投じてもスモールスタートだと感じているのか」について書いてみます。
1. 僕の初期投資の内訳

開業時の資金は、以下のような構成でした。
- 店舗:1200万円(銀行から借入)
- 設備費用:400万円(妻の貯金)
- 運転資金:400万円(親族から借入)
合計で約2000万円。
金額だけ見れば「小さなスタート」ではないように見えるかもしれません。
ただし、運転資金は使用せずに返済できました。
つまり、初期から現金が回る構造を作れていたということです。
2. 中古ではなく“必要最小限”の新設備

僕の店はオール電化です。
コンロや電気釜など、ガスよりも初期コストは高くなりますが、
火力や安全性、清掃性を考えると、電化にする価値があると判断しました。
中古機器はあまり使わず、
「新品でも、本当に必要なものだけを選ぶ」という方針を貫きました。
つまり、“削るところ”と“投資すべきところ”を明確に線引きした形です。
3. 器は“雰囲気に合うもの”を、無理のない価格で

器についても同じ考えです。
高価な作家ものは使っていません。
どんなに高くても1枚1500円以下に抑えています。
ただし、安ければいいという話ではなく、
「店の空気に合う器」を使いたかったので、
開業時には岐阜県の窯元まで足を運び、
色味や形を選んで作っていただきました。
“コストを抑えながらも、世界観は崩さない”
これは、開業時に強く意識した部分です。
4. 開業初月から利益を出せた理由

正直に言えば、開業初期に利益を出せたのは「運」ではありません。
客数と現場オペレーションのシミュレーションが、ほぼ想定通りに当たったからです。
どの時間帯に何人来るか、何分で提供できるか、
調理・配膳・片付けの動線はどうすれば止まらないか。
開業前からかなり細かく想定して動線を組み、実際の現場でズレが少なかった。
そしてもう一つの要因が、損益分岐点を明確に把握していたことです。
借入の月返済は十数万円。
そこに人件費・材料費・光熱費などを加味して、
「月にどれだけ売上を立てれば最低限黒字を維持できるか」を逆算していました。
さらに、単月だけでなく、曜日ごとの必要売上も想定。
「この曜日にいくら売れれば大丈夫か?」「それが現実的か?」を事前に把握していたので、
営業中も“今日どの位置にいるか”を常にイメージできました。
この“数字と現場の両方を把握した経営感覚”が、
結果的に運転資金を使わずに済んだ最大の理由だと考えています。
5. スモールスタートの本質

「スモール=安く始める」ではなく、
「リスクを自分で抱えられる範囲で始める」ことだと思います。
2000万円という金額だけを見れば、決して小さくはありません。
けれど、借入の構造、支出の優先順位、オペレーションの設計までを
“無理なく回せる範囲”で組み立てた結果、
僕にとっては十分スモールスタートでした。
6. まとめ

スモールスタートとは、金額ではなく「回収できる確信の度合い」で決まるもの。
削るべき部分は徹底的に削り、
必要な部分にはしっかり投資する。
その線引きを間違えなければ、
2000万円でも“無理のないスモール”は実現できます。
そして、開業後すぐに利益を出せたのは、
資金の多寡ではなく、“数字と現場の両方を設計していた”ことが大きかった。
あとがき
飲食店の開業では、よく「なるべく安く始めよう」と言われます。
でも、安く始めても、動線が悪ければ回らない。
人件費やロスが増えれば、結局は“高くつく”こともある。
だから僕は、金額ではなく構造で“スモール”を設計した。
結果として、それが持続できる店づくりにつながっています。
